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GluckCoffeeSpot 三木 貴文 インタビュー | The Roaster’s Coffee Life

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2025/02/14

スペシャルティコーヒーの世界に欠かせない存在のひとつがロースター。PostCoffeeでは、コーヒーの世界をより楽しんでもらうべく、国内外の様々なロースターから取り寄せたコーヒーを販売しています。

本企画では、彼らのコーヒーとの出会いやロースターとしての想いに迫るインタビューを実施。今回は「GluckCoffeeSpot(グラックコーヒースポット)」の三木さんにお話を伺いました。(文中敬称略)

熊本県は熊本市、活気溢れる中心街のアーケード通りから一本裏道へ入ると、感度の高い個性豊かなショップがいくつも立ち並ぶ。その中でも一際目を引くのが、築70年の建物を改装した風情ある佇まいのコーヒーショップGluckCoffeeSpot(以下、GluckCoffee)だ。

2017年にロースタリーカフェとなる1号店をオープンしたのち、わずか5年間で店舗数を4店舗まで拡大。地域の方たちの生活に寄り添う温かい雰囲気が魅力のお店だ。

店主を務めるのが三木 貴文氏。そんなお店の雰囲気を表しているかのような穏やかで温かい人柄とコーヒーと向き合う真っ直ぐな姿勢は多くの人を惹きつけ、県内のみならず県外のコーヒーマンからも愛される、熊本のコーヒーシーンを牽引してきたキーパーソンだ。

カフェとの出会い

日本有数の温泉地、大分の別府で生まれ育った三木は、大学進学を機に熊本へ移住。幼少期の頃から湯上り後のコーヒー牛乳は欠かせなかったそうで「僕のコーヒーのルーツは“コーヒー牛乳”」と冗談混じりに話す。そんな彼がコーヒーの世界へ足を踏み入れるきっかけとなったのが大学時代に始めたスターバックスでのアルバイトだ。

「大学生活に物足りなさを感じていて、1年の夏頃からアルバイト先を探していました。そんな中、求人情報誌に見たことのある緑のロゴマークを見つけて『お洒落でモテそうだから』という理由で応募したのがきっかけです(笑)」

ひょんなことからスターバックスで働くこととなった三木は、元々人と話すのがあまり得意ではなかったが、働くうちに接客の楽しさやカフェの文化に魅力を感じるようになっていったという。

「コーヒーはアルコールと違って自然体でいられるので、ラフなコミュニケーションや距離感が自分にとって心地良かったのかもしれません」

それまではひとつの物事に打ち込むのが苦手だったという三木は「初めて夢中になれる好きなことが見つかった」とカフェとの出会いを振り返る。

人生を変えた一杯

コーヒーへの情熱が高まる最中、2013年熊本に『AND COFFEE ROASTERS※』がオープン。すぐにお店へ足を運んだ三木は、今までのカフェカルチャーを覆すような浅煎りのシングルオリジンやお洒落なバリスタがフランクに接客する姿を目の当たりにして驚いたそうだ。

「そこで初めて浅煎りの『エチオピア ナチュラル』を飲みました。今まで飲んでいたコーヒーとは全く違って本当にベリーの味がしてとにかく衝撃的な一杯でした。」

それまではいわゆる深煎りのオーソドックスなコーヒーしか口にしたことがなかった三木にとって、この一杯との出会いは大きなカルチャーショックだった。

初めての挫折

AND COFFEE ROASTERSのオープンをきっかけに、スペシャルティコーヒーの世界に魅了されていった三木は、コーヒー特集が組まれた『雑誌 BRUTUS』を片手に東京のコーヒーショップを巡る旅をする。

「1日10杯以上のコーヒーをひたすら飲み歩きました、当時は味のことは正直分からなかったですが、東京のコーヒーカルチャーを肌で感じて、新しい何かが始まっているというムーブメントにとてもワクワクしました」

コーヒーへの想いが強すぎたが故に、就活をせずにスターバックスで働き続けることを選択した三木は、その後アルバイト先の友人と一緒にコーヒーショップを立ち上げることを決意。1kg釜の焙煎機を購入し、マンションの808号室を借りて「808 COFFEE」を開業した。

「自分たちで焙煎して、抽出したコーヒーを飲んでもらって『美味しい』って言ってもらえることは何事にも変えがたい喜びでした」と当時のことを話す。

しかし、「808 COFFEE」は約半年ほどで移転を余儀なくされ、しばらくは移動販売で活動を続けるが、2人分の生活を賄うほどの収入は得られずお店の運営は友人が引き継ぐ事になった。

「コーヒーで飯食っていくためには、ちゃんと勉強しなくてはいけないし、色んな人にお店に来てもらわないと意味がない、初めて挫折を味わいました。でも、やったからこそ気づけたことも多かったし、今思えばこの時チャレンジをしていてよかったなと思えます」

巡り合いと成長

その後、一からコーヒーを学ぶため上京を決意。知り合いの伝手で東京のカフェの立ち上げを経験し、バリスタとして腕を磨いた。

「東京での生活は全財産をコーヒーに注ぎ込んでいましたね(笑)ちょうどTokyoCoffeeFestivalが初開催されたりと東京のコーヒーシーンも盛り上がりを見せている時で、お客さんの数も凄かったですが、出店している人たちも同年代の人たちがたくさんいて、こんなにもコーヒーに人が熱中しているんだと驚きました」

上京から1年が経った頃、勤めていたカフェの経営方針が変わることになったのをきっかけに熊本へ戻る事となる。

「このまま東京に残って働くことも考えましたが、同年代のバリスタ達がバリバリ活躍している姿をみて、色んな刺激を受けたのでこの熱を熊本に持って帰ったほうがいいなと思い、戻ることにしました」

帰熊後、Onthebooks(オンザブックス)というコーヒースタンドが併設された雑貨屋でバリスタを務めることとなった三木。そこではオーナーからビジネスの難しさや厳しさを教わったという。

「コーヒーの専門店ではなかったので、コーヒー以外の分野の視点からみた学びが多かったです。オーナーからは『この一杯のコーヒーでどうやって稼いでいくかちゃんと考えんといかんばい』と時には厳しいお言葉も掛けていただいたり。プロとして仕事をする上で、本当にたくさんの事を勉強させていただきました」

さまざまな巡り合いや経験を経て、一人前のバリスタとして成長していく彼だが、一個人の力でスペシャルティコーヒーを広めていくことの難しさに課題を感じ始める。

「熊本のコーヒーシーンを盛り上げるためには、まず働ける場所や機会をつくらないといけないという気持ちが強くなっていきました。ただ、自分でやるにしても規模をスケールしていくのには時間がかかる…。そう悩んでいる時に、今の会社からお話をいただいて『GluckCoffee』の立ち上げから参画することになりました」

「GluckCoffee」は多角化企業の事業のひとつで、三木がOnthebooks時代に手伝いをしていたクラフトビールショップも同じチームの一事業だったこともあり、トントン拍子に話が進んでいった。まるでなにかに導かれるように次のステップへと繋がるストーリーは、彼の人柄と魅力があるからこその必然の出来事かもしれない。

新たな挑戦の始まり

「東京でみてきたコーヒーシーンは、1人1人のバリスタがスペシャルティコーヒーを広めていくんだ、という熱心な気持ちが強く感じられたんです。ロースターとして産地に行き、買い付けをしていくためには、消費量を増やしていかないといけないしスペシャルティコーヒーがもっと日常的に飲まれるような環境にしていかなくちゃいけないと感じました」

そんな三木の想いを形にした「GluckCoffee」はスペシャルティコーヒーを広め、より多くの方に知ってもらいたいというコンセプトのもと、2017年にオープン。なるべく多くの人の目につきやすい街の中心部につくり、地元の人たちに寄り添った親しみやすい雰囲気が特徴だ。

「特に意識していることは選択肢の幅を持たせることです。」

当初は浅煎りのみをラインナップしていたGluckCoffeeだったが、お客様の声を受け、すぐに深煎りも並べた。「深煎りを飲むために来てくれた方が少しずつ浅煎りにトライしてくれるようになった」と、選択の幅を持たす事でストレスなくコーヒーを楽しんでもらえる環境づくりに注力した。

GluckCoffeeSpotが担う役割

三木は、この場所でスペシャルティコーヒーを伝えていく上で“雇用を作ること”をテーマとしている。

「スペシャルティコーヒーを広めていくために、まずは雇用をつくり、働く人を増やしていきたいです。その人たちが独立していったり、良いお店が増えていくことでカルチャーとして街に浸透していく。そのためには私たちがその役を担っていく必要があると考えています」

これからコーヒー業界を志す人たちが活躍できる場をつくることで、店舗や消費量も増え、結果的に生産者への還元にも繋がると考える。

その思惑通り、創業から約5年で4店舗へと事業を拡大していったGluckCoffee。お店を支えるメンバーたちは自主性を持って生き生きと働いている姿が印象的だ。

目指したい未来

「まずは産地に行って、生産者と会って、豆を買って、自分たちの言葉でコーヒーを伝えられるようになりたいです」

ロースターとして「豆のストーリーが感じられるような焙煎を心掛けている」という三木は信頼のおけるインポーターからのみ豆を仕入れ、今まで以上に素材への意識を大事にしている。

「もっとスペシャルティコーヒーを広めていって、もっと消費量を増やして、自分たちの手でダイレクトトレードができる規模まで大きくしていきたいです。そうすることでより良い循環が生まれ、本当の意味でサスティナブルな未来をつくれると思います」

また今後は街の中心部ではなく、郊外エリアにも店舗を増やしていきたいと語る三木。

「わざわざオシャレしていって飲むコーヒーもいいけど、極端な話パジャマでも買いにいけちゃうような、もっと気軽で日常的なお店をつくっていけたら良いなと思います」

コーヒーと真っ直ぐに向き合いながら、ゆっくりと着実に歩を進めてきた彼が思い描く未来はそう遠くはないはずだ。次なる景色を目指して、これからも美味しいコーヒーを届け続ける。

※AND COFFEE ROASTERS:2013年、熊本市街・上乃裏通りにオープンしたロースタリーカフェ。当時、全国的にも珍しかったスペシャルティコーヒーの専門店としてローカルのコーヒーカルチャーを牽引してきた熊本のスペシャルティコーヒーシーンの先駆者的存在。2021年よりPostCoffeeのロースターパートナーにも参画している。

三木 貴文 / Takafumi Miki
GluckCoffeeSpot

大学時代、カフェでのアルバイトをきっかけにコーヒーに興味を持ちはじめる。大学卒業後は友人と共にマンションの一室をカフェにした店舗をオープンするが、事情により移転を余儀なくされ二人は別々の道に。その後は東京、熊本で経験を積み、2017年から「GluckCoffeeSpot」のマネージャーとして店舗の立ち上げから運営までを担う。熊本のコーヒーシーンを支えるキーパーソンの一人。

GluckCoffeeSpot
熊本県熊本市中央区城東町5-52
Tel:096-288-2556
Instagram:https://www.instagram.com/gluckcoffeespot/

INTERVIEW & TEXT / RYOTA MIYOSHI

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PostCoffee / プロダクションマネージャー コーヒーのおいしさや楽しさを消費者に届け、自然な形でいい循環が長く続いていくコーヒーシーンをつくっていきたい。