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27 COFFEE ROASTERS 葛西 甲乙 インタビュー|The Roaster’s Coffee Life

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2023/08/04

スペシャルティコーヒーの世界に欠かせない存在のひとつがロースター。PostCoffeeでは、コーヒーの世界をより楽しんでもらうべく、国内外の様々なロースターから取り寄せたコーヒーを販売しています。

本企画では、彼らのコーヒーとの出会いやロースターとしての想いに迫るインタビューを実施。今回は27 COFFEE ROASTERS(トゥエンティセブンコーヒーロースターズ)の葛西さんにお話を伺いました。

コーヒー屋としての第一歩

神奈川県は藤沢市・辻堂エリア。海からほど近い閑静な住宅街に27 COFFEE ROASTERSは店舗を構える。昔は商店街だったというこの場所に1997年、自家焙煎のコーヒー豆屋兼喫茶店として27 COFFEE ROASTERSの前身となる「自家焙煎 かさい珈琲」がオープンした。
オーナーを務めるのが葛西 甲乙(かさい こおつ)さん。25年以上コーヒー業界に携わり日本のスペシャルティコーヒーの先駆者としてロースター、グリーンバイヤーとしてコーヒーシーンを牽引する存在の一人だ。そんな葛西さんだが、コーヒー屋をやることになったきっかけについては「ほんとにたまたまです」と笑いながら話してくれた。

「実家が自営業で町工場をやっていたんですけど、ちょうどその頃バブルが弾けてしまい日本の製造業がだめになってしまったんです。親から『お店を畳もうと思うんだけど一緒に何かやらないか』と相談されて、僕は当時サラリーマンをしていたんですけど、東京まで通うのも嫌だったしその会社にいても将来はないなと思っていたので『じゃあ何かやろう!』とすぐに返事をしました」

スターバックスが日本に初出店をした翌年の1997年の出来事である。日本ではセカンドウェーブと呼ばれる新しいコーヒーのブームが訪れ、大量消費の時代からコーヒーの在り方が変化をしていくタイミングであった中、なぜコーヒー屋を選んだのだろうか。

「今はみんな、“コーヒー屋をやりたい!”といってはじめると思うんですけど、僕の時なんかは全くなくて、なんとなく湘南でコーヒー屋だったらかっこいいよねって、それくらいしか考えてなかったです。当時は海に行きながら仕事があればいいなくらいしか考えてなかったですよ(笑)」

“たまたま”コーヒー屋という仕事を選び、手探りの状態ながら独学でコーヒーを学んでいったという葛西さん。

「当時は情報もなければ横の繋がりもない、(コーヒー豆の)焼き方だって誰も教えてくれない。これでいいのかなと思いながらも、僕も凝り性だから見様見真似で学んでいきました。味作りに苦労はしましたが、今思えば下手に弟子入りせずに自分でやっていてよかったなと思います」

スペシャルティコーヒーとの出会い

分からないなりにも真摯にコーヒーと向き合いながら腕を磨いていった葛西さん。そんな中、2003年に日本スペシャルティコーヒー協会が発足されて、日本のコーヒー市場も転換期を迎えた。葛西さんにとってもこのスペシャルティコーヒーとの出会いが大きなターニングポイントとなる。

「スペシャルティコーヒー協会が主催するセミナーに参加するようになって『こんな世界があるんだ…』と、まず驚きました。初めて飲んだスペシャルティコーヒーはボリビアのコーヒーで、当時COEで3位になった豆でした、今まで飲んでいたコーヒーと違う!とびっくりしたのを覚えています。スペシャルティコーヒーは、品質をちゃんとみているので理にかなっている。当時はコーヒー屋で食っていくのも大変だったから、これをちゃんとやれば望みがあるなと思いました。それからはカッピングセミナーも可能な限り参加して、横の繋がりもできたことで色んな刺激を受けながら、どんどんスペシャルティコーヒーにのめり込んでいきました」

初めてスペシャルティコーヒーを飲んだときの感動は今でも鮮明に覚えていると話す葛西さん。それからはスペシャルティコーヒーの専門店として新たな船出を切るためにお店を徐々に変えていったという。

「決めてからはもう早かったですよ、当時言われたのは『スペシャルティコーヒーをちゃんと理解するんだったら今までのことは捨てて、頭を180度切り替えるくらいの気持ちじゃないとダメだよ』と、特に僕らみたいな小さいロースターは物量も資本力も大手には敵わないのでそれぐらいのことをやらないと生き残れないよっていうのを教えられました」

タバコが吸えたお店も突如次の日から禁煙にするなど、とにかく最初はできる範囲でお店を変えていったという。「もうめちゃくちゃだったよ(笑)」と葛西さんは当時のことを振り返るが、それだけスペシャルティコーヒーに賭ける思いがあったのだ。

スペシャルティコーヒーの魅力にのめり込んでいくと共に「美味しいコーヒーを手に入れたい」と生産地への気持ちが徐々に高まっていったという葛西さんはコーヒー屋の買付グループの仲間と一緒に2006年に初めて産地に行った。

「最初に行ったのはニカラグアでした。空港に降りた時の熱気や見る景色も全てが真新しくて、コーヒーはもちろんですがそこで暮らしている人たち、街並み、全てが新鮮でとにかく感動しました」

原点回帰に込めた想い

産地へ行くようになり、よりスペシャルティコーヒーに対する気持ちが高まっていったという葛西さんは、2012年に大きな決断をする。今まで辻堂という地域に根ざし16年間続けてきた「かさい珈琲」のブランドを刷新することにしたのだ。

「一度全てリセットして、自分が初めてスペシャルティコーヒーに出会った時のあの感動を外に向けてもっと発信していきたいな、と思ったんです。すでに10年以上やってきたわけだから良くも悪くも馴染んできてしまっていて、なんか思い切ったことをやらないとお客さんが振り向いてくれないと感じていました」

その頃は産地をはじめ、消費国にも足を運んでいたという葛西さん、海外のロースターやカフェを訪れる中で色んな刺激も受け、自らの内に秘めたコンセプトを形にするために、お店の名前も変え、2012年10月「27 COFFEE ROASTERS」として新たなスタートを切った。

「“27”は僕の好きな数字なんですよ。少年野球の時に初めて貰った背番号でラッキーナンバーみたいな感じです、原点に戻るという意味も込めて決めました」

お店の名前をはじめ、内外装もコンセプトも全て変えたことで「新しい風が吹いた」と口にする葛西さん、新しいお客さんやスペシャルティコーヒーの価値を理解してくれる方も増えたことで、豆の販売量も年々増えていったという。

「生産地からも認められるロースターに」

27 COFFEE ROASTESのロゴをよく見ると、“四角いコンテナ”が描かれている。これは2012年のリニューアルの際に、「いつかはコンテナで生豆を仕入れたい※」という想いを込めて決めたという。2016年、“ワンコンテナミッション”という目標を掲げ、ホンジュラスの生産者からコーヒー豆をワンコンテナで仕入れるという大きな挑戦の一歩を踏み出した葛西さんだが、なぜそこまでホンジュラスのコーヒーに惹かれ、そしてコンテナにこだわるのだろうか。

「一番は人です。ちゃんとしたお付き合いのできる素晴らしい生産者と出会えたのが一番大きいです。その中でも、海外のロースターは僕らと違って(仕入れの)ボリュームが凄いので買い負けてしまうんです。元々の市場の規模も土台が違うから仕方ないのですが、そういうところと張り合って良いものを買えるようにならないとだめだと思い、自分たちだけでホンジュラスのコーヒーを買おうと決めました」

なんとワンコンテナミッションの開始からわずか一年足らずの2017年にこの目標を達成し、それからも毎年着実に量を増やし続けているという。2コンテナ、2.5コンテナ…今年は3コンテナを目指しているそうだ。

「僕はロースターとして、生豆を買うことに対して使命感があって、いかに豆を買ってそれをお客さんに飲んでいただけるかを考えています。もっとボリュームを買えるようになりたいですね」

27のロゴマークに込めた想いを形にした葛西さんだが「うちなんかまだまだ」と口にする。その真っ直ぐで謙虚な人柄が生産者たちの心をも動かすのだろう。

生粋のコーヒーマンとして働くこと早25年、そんな彼の普段のコーヒーライフについて伺うと「もう言えるようなもんじゃないよ」と笑いながらも答えてくれた。

「淹れ方はいつも適当です。生産国の彼らを見ていても毎朝“普通に”コーヒーを淹れてるんです、もちろんこだわる時があってもいいけど大事なのは日々のルーティンの中にコーヒーがあることで、毎日続けられる淹れ方で肩肘張らずに楽しむのがいいと思います。そういうお客さんが増えてくれば自然といい循環が生まれてくると思います」

1997年から初心を忘れずにコーヒーと向き合い続けるその姿は、たくさんの人たちの心を動かし、生産地と私たちを繋げる架け橋となっている。「コーヒーは僕の人生そのもの。生産者たちと一緒の気持ちだよね」そう最後に話してくれた。これからも葛西さんの挑戦は続く。

※コーヒー生豆を輸入する際に使用するコンテナには、1台につきコーヒー豆の麻袋を約300袋(1袋×60kg)積むことができる。焙煎豆にすると約15トン。高品質なコーヒー豆を継続的に安定して買い付けるためにはボリュームを買うことが必要であるがマイクロロースターが1社でワンコンテナを埋めるのは難しいのが現実。

葛西 甲乙 / KOHTSU KASAI
27 COFFEE ROASTERS
1997年に27 COFFEE ROASTERSの前身となる「自家焙煎 かさい珈琲」を立ち上げ、2012年に「27 COFFEE ROASTERS」へとブランドを刷新。2020年にはコロナの打撃を受けたコーヒー農家を救おうと『ホンジュラスのコーヒー生産者を支援するための輸入プロジェクト』としてクラウドファンディングも実施するなど、スペシャルティコーヒー業界を牽引するパイオニア的存在。

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焙煎士としておいしいコーヒーを消費者に繋げ、各地のロースターさんと一緒になってスペシャルティコーヒーの魅力を伝え、いい循環を生んでいきたいです。