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OBROS COFFEE 荻野稚季インタビュー|ロースターのコーヒーライフ

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2023/09/20

PostCoffeeが提案するコーヒーの味わいがひとつずつ異なるように、コーヒーの味を司るロースターたちが歩んできた道も、またそれぞれ。本企画では彼らのコーヒーとの出会いや、ロースターとしてこれまでに歩んできた軌跡についてインタビュー。今回お話をうかがったのは、福島県の郡山市を舞台に兄弟でコーヒーショップ「OBROS COFFEE」を営む荻野稚季(わかき)さん。

「コーヒーについてインタビューしてもらうの、実ははじめてなんですよね」。そうはにかむ稚季氏は、兄の荻野夢紘(ゆめひろ)氏とともに地元である福島県の郡山市で「OBROS COFFEE」を展開するコーヒーロースター。日々焙煎業務をメインに取り組む稚季氏は、彼ら兄弟のことや、お店ができるまでのこと、現在は日々どのようにコーヒーと向き合っているのかについて話をしてくれた。

ピュアな性格だからこそ、ここまでコーヒーに染まれたのかも

「幼稚園、小学校、中学、高校と、そのときどきで自分のキャラクターが違うというか、好きなものや興味があるものが結構変わっていて。言葉を変えると染まりやすい、流されやすいタイプなのかもしれません。良くも悪くも核がない性格なので、ポジティブに捉えればこれまでにいろいろなことに興味を持てたし、ひとよりも多くの経験をしたと言えるかもしれませんね。ただ、ひとつだけ一貫している部分を挙げるとすれば、常に兄の影響を受けてきたということでしょうか」

自身を「カメレオンのような性格だった」と話すほど、とにかく友人や周りの影響を受けやすかったという稚季氏だが、もっとも影響を受けてきたのは4つ上の兄·夢紘氏。好きなおもちゃも好きなアニメも、学生時代に使っていたガラケーの機種も兄と同じ。これまでの人生の多くの場面で兄の影響を受けてきたと話しながら、鬱陶しい弟だったのかもと振り返る。

「今となっては仲のいい兄弟といえますが、幼少期はよくケンカもしていましたよ。でも、僕は人一倍兄へのリスペクトが強くて、常に兄のマネをしてずっとあとを付いてまわってきた。今思えば本当に鬱陶しい話ですよね(笑)。ストレスをかけたなと反省しつつ、そんな自分を受け入れてくれたからこそいまの兄弟のかたちがあるんだと感謝の気持ちもあります。コーヒーの世界へ飛び込んだのも、もちろん兄の影響で。自分のピュアな性格と兄を追いかけつづけてきたから、ここまでコーヒーに染まれたのかもしれません」

いちどはそれぞれが別の道へ。
コーヒーを介して深まった兄弟の絆

コーヒーに夢中になった兄の姿に魅了され、自身もコーヒーの世界へと飛び込む決心をしたという稚季氏。しかしその意思は固く、兄弟でコーヒーのプロフェッショナルとしての独立について幾度も話し合いを行い、高校卒業とともに兄の夢紘氏とは異なるルートで経験を重ね、数年かけてコーヒーの知識を会得したうえで現在のショップへと合流したという。

「僕が高校二年生の頃、すでにカフェでアルバイトをしていた兄が、家族に『いずれ自分のお店を持ちたい』という話をしたんです。それを聞いて自分のなかにも火がついたというか、『僕も一緒にやりたい』と、自分のなかに漠然と“コーヒーを仕事にする”という指標が定められた瞬間でした。正直いうと、当時の自分はコーヒーが苦手でした(笑)」

ラテアートがキッカケでコーヒーの魅力にはまったという兄の夢紘氏は、高校卒業後に県内でも特にラテアートに力を入れていたチェーン店のカフェへと入社。店長期間も含め5~6年の勤務を経てカフェ経営のノウハウを習得し、その後、店舗設計の要となる空間デザインについて学ぶべくインテリアショップに転職。さらに、関東でエスプレッソマシンのメンテナンスをする仕事に就きマシンについて基礎から知識を学ぶなど、コーヒーについて多角的な視点でノウハウを学び続けたという。まさにコーヒー道をひた走る兄·夢紘氏。後に兄弟でショップをオープンするわけだが、兄の背中を見ながら、自分のなかにもふつふつと湧き上がるものがあったと稚季氏はつづける。

「ショップをオープンした当初は僕たちに焙煎士の技術が無かったため、焙煎された状態の豆を仕入れてコーヒーをご提供していました。でも、兄と仕事のパートナーになったことを機に、自分のなかで『これまでの人生は兄の真似ばかりしてきたけど、自分にしかできないことって何だろう。自分の強みってなんだろう』ということを強く考えるようになって。そこで、お客様とのコミュニケーションが得意な兄を支えられるように、自分はバックヤードのプロになる決意をしたんです。それが、焙煎士になるという道でした」

ふたりが本当におすすめする味だけを丁寧に提供できる空間を求めて

東京・神田の「GLITCH COFFEE & ROASTERS」で焙煎士として経験を積んだ稚季氏が合流する(開業した後にGLITCHで焙煎の修行を始めました)かたちで、ふたりは2016年5月に念願のコーヒーショップ「OBROS COFFEE」をオープン。兄弟ふたりで命名した店名の由来は、もちろん“Ogino BROtherS”から。ノウハウの会得から資金調達まで、兄弟ふたりだけの力で作り上げたショップということもあり、その思い入れはひとしおだ。

「“提案型スペシャルティコーヒーショップ”をテーマにオープンしました。一般的にコーヒーが抱かれている苦味や酸味といった味覚の特徴のみならず、コーヒーそれぞれの多種多様な個性を僕たちが読み解き、それをお客様の好みに合わせてにご提案できるような“コーヒーとの思いがけない出会いを創る場所”として機能したいと考えています」

郵便局、薬局を経て「OBROS COFFEE」となった、築50年以上の趣のある建物をベースに、内装は同じく地元で活躍する建築事務所·ADXが担当。兄·夢紘氏がインテリアショップで勤務していた当時に知り合った縁もあり、ロゴデザインなどのクリエイティブを一括してサポートしてもらったのだという。

「こういうお店がやりたい、こういうコンセプトでお客様に提案をしたいという話をするなかで『カウンターだけのお店にしてはどうか』というアイデアが生まれたことから、現在の店舗デザインへと繋がっています。コーヒーを抽出する様子が見えるように手元をガラス張りにすることで、その所作やコーヒーの魅力を伝えられるのではないかといった思惑もあって、バリスタの一連の所作や同線を考慮した店舗デザインに仕上がっています」

さらに、ショップへのこだわりは空間演出のみならず、手がけるメニューにおいても然り。「売れるから出すみたいなことはしたくなくて、ふたりで考えて絞ったメニューで勝負したという思いが強かった」と話すように、オープン当初からふたりが“本当におすすめできるもの”だけにこだわり続けていると、稚季氏。

「いまでこそ、そうしたメニュー構成も『オブロスらしいよね』と言ってもらえるようになりましたが、思い返すと尖り過ぎていたというか、お客様にとって少し使いにくい店だったのかもしれません。おかげでオープン当初は苦労しましたよ(笑)。コーヒーにおけるいちばんのこだわりポイントは、買い付けです。どんな豆を仕入れるかにいちばん時間と労力をかけていて、銘柄は常時3~4種類の豆を、年間を通してご提供しています。一般的な自家焙煎のショップとしては種類が少ないと思いますが、本当に僕たちがお客様にお届けしたいと思う銘柄だけに絞っているため、敢えて種類では勝負していないんです」

ショップは、あくまでコーヒーとの出会いの場。その一杯から「なぜ?」を感じて欲しい。

兄弟ではじめたとはいえ、兄が上司であり、自分もスタッフのひとり。遊びなしの上下関係に当初は戸惑うこともあったそうだが、今ではふたりのやりとりにブレーキがかかることはない。オープンから7年弱が経ったいま、ふたりはどのような展望を抱いているのだろうか。

「足を運んでくださるお客様も増えてきて、少しずつではあるんですけど、やっと地域にも馴染んできたのかなって。これからふたりで挑戦したいことや考えていることもあるんですけど、自家焙煎をはじめてまだ3年程度。もっと良い品質の生豆を買いつけてお客様にご提案したくても、このショップだけではまだまだ規模がマイクロ過ぎるんですよね。店舗展開なのか、卸業の拡大なのか、今後も検討しなければいけませんが、農家さんからどれだけ買い付けられるかという面を強化していきたいとも考えています」

「まだまだと感じる部分も多々あるものの、理想とする店との付き合い方を理解してもらえたり、ふたりが提案したいことに興味を持って足を運んでくれるお客さんも徐々に増えてきました」と、笑顔を見せる稚季氏。ショップをどのように楽しんで欲しいかを尋ねると、次のような答えが返ってきた。

「美味しい、って思っていただけるだけで僕たちは十分うれしいです。ただ、その一杯が何で美味しかったのかについて、一瞬でも考えたり、興味を持っていただけたらと日頃思っていますし、自分たちが提供する一杯が、そういうきっかけになってくれることを祈りながら、日々コーヒーを淹れています。品種なのか、焙煎なのか、鮮度なのか。美味しさの理由を考えることが、新たなコーヒーとの出会いにつながると思いますし、コーヒーの楽しみかたも広がるはずです。うちはスタッフとの距離がいい意味で近いショップなので、ぜひ気軽に足を運んでいただきたいです。新たなコーヒーとの出会いをお約束します」

荻野稚季/WAKAKI OGINO
OBROS COFFEE
1993年生まれ。福島県出身。2016年、兄の荻野夢紘(ゆめひろ)氏とともに地元·郡山に「OBROS COFFEE」をオープン。兄はバリスタ兼店舗運営を、弟の稚季氏はロースターとして日々焙煎業務をメインに取り組んでいる。“提案型スペシャルティコーヒーショップ”をテーマに、コーヒーとの思いがけない出会いを創る場所として、地元民をはじめ多くのコーヒーファンから愛されている。

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焙煎士としておいしいコーヒーを消費者に繋げ、各地のロースターさんと一緒になってスペシャルティコーヒーの魅力を伝え、いい循環を生んでいきたいです。