コーヒーを挽いたり淹れたりした時、「なんだか生のジャガイモのような香り(味)がするぞ…」と思った経験はありますか?これは焙煎や淹れ方などに原因があるわけではなく、”ポテトフレーバー”(potato taste defect / PTD)と呼ばれる欠点豆によって引き起こされるものです。
この記事では、ポテトフレーバーが発生する原因や、生産者たちや私たち焙煎士がどのようにこの問題と向き合っているか解説します。
これを読んで、ポテトフレーバー(potato taste defect / PTD)についての理解を深め、今後出会った時にはびっくりせずにこの記事を思い出していただけたらうれしいです。
ポテトフレーバーとは
「ポテトフレーバー」(potato taste defect / PTD)とは、加熱していない生のジャガイモをかじった時のような青臭い香りを引き起こす欠点豆のことです。ポテト臭のあるコーヒーを飲んでしまっても健康的な被害はないですが、このポテトの香りや味はかなり強く、スペシャルティコーヒーの醍醐味である繊細で複雑なフレーバーをかき消してしまうため避けられています。
ポテトフレーバーの欠点豆はコーヒーの産地ならどこでも発生するというものではなく、アフリカのビクトリア湖周辺に位置する世界有数の優れたコーヒーの産地、特にコンゴ民主共和国・ウガンダ・ルワンダ・ブルンジといった生産国で発生しています。1940年にコンゴ民主共和国の東部で最初に発見されたという研究結果があり、生産者たちは長い間この欠点豆の問題と向き合い続けてきました。
ポテトフレーバーが引き起こされる原因については現在も研究中ですが、1cmにも満たない小さなカメムシ科の虫(Antestia bugs)によって引き起こされるという説が有力と言われています。この虫は、コーヒーの花のつぼみや、コーヒーノキの葉、さらにチェリーに関しては熟す前のものでも後のものでも、そのさまざまな部分を食べてしまう害虫です。
この虫がコーヒーチェリーの汁を吸う時、唾液に含まれる細菌がチェリー内に侵入し異常発酵することでメトキシピラジンというポテト臭の原因となる成分が作られると考えられています。また、細菌ではなく、虫がコーヒーチェリーの汁を吸うことによってチェリーがストレスを引き起こしメトキシピラジンを生成するのではないかという研究者もいます。
いずれにせよ、ポテトフレーバーにはこのカメムシ科の虫(Antestia bugs)が大きく関わっているようです。
この欠点豆の厄介なところは、視覚的な判別は難しく、焙煎後や焙煎した豆を挽いた時にならないと気づきにくいという点です。
そのため、コーヒーを淹れよう!と思って豆袋を開いた時やグラインドした時など、一番ワクワクするタイミングがこのポテトフレーバー発見のタイミングになってしまうケースが多いのです。
生産者の努力
厄介な「ポテトフレーバー」ですが、生産者や私たち焙煎士はこの問題とどう向き合っているのでしょうか。
原因となるカメムシ科の虫(Antestia bugs)は、標高1,350m~2,135mのエリアで確認されており、これはスペシャルティコーヒーの生産にとって最適な標高範囲です。コーヒーノキ1本に対してカメムシ科の虫が1匹増えることでポテトフレーバー発生のリスクが70%以上増加するというデータもあります。このため農園では、カメムシ科の虫の数をできるだけ減らすように様々な取り組みを行っています。
代表的な取り組みの一つが、トラップを仕掛けて虫を捕獲する方法です。熟したチェリーのような赤色に塗ったトラップをコーヒーノキに吊るし、その中に虫たちが入っていくものです。
他には、カメムシ科の虫は日陰になった暗い場所に集まるという性質があることを利用して、ポテトフレーバーのリスクを下げるために剪定に力を入れている農園もあります。
また、コーヒーの生産過程では必須の工程である「精製」の際にもリスクを減らす取り組みが行われています。具体的には、ウォッシングステーションでチェリーを水に浮かべることで、カメムシ科の虫の影響を受けた密度の低いチェリーを取り除いています。
この他にも、生豆の状態で質量分析を行い、ポテトフレーバーの欠点豆を除去する方法もあります。リスクを下げることが目的の他の方法に比べて、かなり高精度でポテトフレーバーを除去することのできる唯一の方法ですが、このような科学的検査に必要な設備が整っている小規模農園はほとんどないのが現状です。
このような生産者さんたちによる数々の努力によって、ポテトフレーバーの欠点豆が発生する頻度はおよそ1.5kgに一粒ほどの確率と言われ、かなり少なくなっています。
私たちPostCoffeeの焙煎士も、焙煎したコーヒー豆をパッキングする前に手作業でピッキングを行い、欠点豆の除去に努めています。
もしポテトフレーバーに出会ったら
リラックスするためのコーヒータイムなのに、ポテト臭にびっくり・がっかりした気分で終わってしまうのは避けたいですよね。
欠点豆である1粒以外はおいしく飲めるコーヒーなので、豆袋を開けた時にポテト臭を感じたら、少しずつ挽いて原因となっている豆を確認し取り除くことを試してみてください。
また、45gの少量のパッケージで発生してしまったら、お気軽にお問い合わせ窓口にご連絡ください。交換や代替品をお送りするなどの対応が可能です。
オレンジなどジューシーなフレーバーや、クリーンカップといった特徴をもつ東アフリカのコーヒー。じわじわと口に広がる優しい甘さが心地よくて、私もこのエリアのコーヒーが大好きです。
農園の生産者さんたちの手元から焙煎を経て出荷されるまで、多くの地道な作業によっておいしいコーヒーが作られています。このことを評価して、たくさんのコーヒーをポジティブに楽しんでいただけたら嬉しいです。
(Text : Emiri Nishimura)