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「生産者と消費者を繋ぐ」COYOTE 門川 雄輔さんインタビュー

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2022/02/22

遥か遠くのコーヒー生産地から私たちの元へ一杯のコーヒーが届くまで、コーヒーの世界には生産者、輸出入業者、流通業者、ロースター、バリスタなど多くの人たちが携わっている。

今回は、2020年より京都にコーヒーショップ「COYOTE」を構え、ロースター・バリスタでありながら、エルサルバドル専門のインポーターとして日本にエルサルバドルのコーヒーを広めている、門川さんにお話を伺った。今ではコーヒーのスペシャリストとなった彼がコーヒーへ目覚めるきっかけとは何だったのだろうか。

「大学生の頃にバックパッカーをしていて、南米をフラフラしている時期にたまたまコロンビアのコーヒー農園へ行ったんです。その農園は観光農園のようなところで、現地のおばちゃんの後ろにつきながら収穫をやらせてもらったり、一通りコーヒーの収穫のプロセスを見せてもらった1日があって。コーヒーが植物で、果物からできて、こういう過程をたどってコーヒーになるっていうのを初めて目の当たりにして驚きました」

当時、コーヒーのことはよく知らず、家でたまに淹れて飲む程度だったという門川さん。はじめてコーヒー生産の過程を知り衝撃を受けたという。日本に帰ってからは中南米に携わることのできるコーヒー関係の仕事に就きたいと決意。その後、一度は地元のコーヒー会社に就職するが、そこでの仕事は小売の営業で、主に商談がメインだったという。

「仕事はほぼ商談しかなくて、取引先にはコーヒーの値段を下げろということばかり言われたんです。コーヒー屋さんとして生産者のために働きたかったのに、コーヒーの値段を下げる仕事しかしていなくて、『これほんま何のためにやってんやろ』と思ってしまう状態が続きました。このままでは自分のやりたいことができないと思い会社を退社しました」

会社を退社後、門川さんはJICA(国際協力機構)の国際ボランティアで中米エルサルバドルへ行くことになった。現地では農園での仕事以外にもインポーター関連の仕事、品評会の手伝いまで多岐に渡ったという。この時から、コーヒーの評価や流通に関わる部分にも携わっていた門川さんは現地で感じたコーヒー生産の奥深さや面白さをこう語る。

「収穫からプロセスの全工程を見てカッピング(※1)しているから、コーヒーの風味にどういう影響があるのかが焙煎の前から遡って考えられるのがいいことで、この感覚は他ではあまり味わえないんやろなって思います。小規模生産者が集まるカッピング会では、みんな生産地の気候は似ているはずなんですけど、飲んでみると生産者ごとに『その人の味』みたいなのが現れる。その瞬間はコーヒーめっちゃ素敵だなっていつも思います」

まさに「From seed to cup(種子から一杯のコーヒーまで)」。コーヒーは農作物であり、そのおいしさは生産者一人ひとりのたゆまぬ努力の結果だと感じさせてくれる。

門川さんはエルサルバドルから帰国後、京都にコーヒーショップ「COYOTE」をオープンしている。店名の由来について聞いてみた。

「COYOTE(コヨーテ)って動物の名前なんですけど、ずる賢い生き物で、そこから派生して人間社会でもいろんな場面で使われる言葉なんです。中南米のコーヒー業界においては、COYOTEはブローカーという職業のことを表しています。農家さんから買い取ったチェリーを運んで、大手の輸出業者さんなどに高い値段で売ったりしているんです。トレーサビリティの不透明さとか、コーヒーのクオリティに対してブローカーから農家に対価がちゃんと払われていないとか、今のコーヒー業界からみてもあまりよくない。それに対して、僕らは、コーヒー業界の中でも一番中間業者の少ない形で、全部僕が行ったことのある農園から直接やりとりをして買い付けを行うようにしています。生産者と輸出業者(エクスポーター)と通関業者と僕、COYOTEしかない。限りなく中間業者が存在しない形でやっているんですけど、いざコーヒーを飲む人にとっては僕らが1番大きな中間業者になると思います。なので、僕たちが買い付けや最後の提供をクリーンに行おうという思いで、あえて中間業者を意味する“COYOTE”を名前にしました」

コーヒーショップを運営する傍ら、生豆のインポーターとしてエルサルバドルのコーヒーを日本各地のロースターへ提供する門川さんはなぜインポーターをはじめたのだろうか。

「僕、めちゃくちゃシンプルにコーヒーをいっぱい買いたいだけなんです。COYOTEで使いきれないから、いろんな人にエルサルバドルのコーヒーを美味しいって思って欲しいからインポーターもやっていて。僕らは最初からコンテナをまるまる買うところから始めているので、他のロースターさんなどに豆を売らざるを得なかった状態だったのですが、最初はどこに売るのかも決まっていない何トンものコーヒーが日本に来ている状況でした。いっぱい買ってあげるためにどうしてあげるのがいいのかって考えていて、たまたまインポーターになったという感じです」

生産者と消費者を繋ぐ架け橋となっているCOYOTEは、生産者さんがつくった美味しいコーヒーをたくさん買いたいというシンプルな想いから、自然とインポーターという形になっていったのであるという。そんな門川さんにエルサルバドル、そして現在PostCoffeeでも取り扱っている「El Salvador Acopaca(ELS-2405)」(エルサルバドル アコパカ)についてご紹介いただいた。

「まずエルサルバドルのコーヒー全体としては、大きな特徴がないのが特徴やなと思っています。その分、デイリーに飲めて、優しい甘さで、飲み心地の良いボディ感があります。Acopaca(アコパカ)は生産者組合の名前で、みんなでいいコーヒーを地域ブランドとして盛り上げる為に20ぐらいの生産者が集まって生まれました。ここのメンバーはCOE(※)とったことある人だらけで、みんなめちゃくちゃ美味しいコーヒーを作るんですけど、そんな生産者さんがいるなかでもいいものばかり採れるわけではなくて“それなり”のものがいっぱい採れるんですよね。スペシャルティのレベルではあるし普通に美味しいけど、シングルオリジンで出せるかと言うとそうでもないみたいな“それなり”のコーヒーって売れにくくて、どうしても価格勝負になってくるんです。それで、今度は価格勝負になってくると、スペシャルティの小ロット生産だとボリュームが足りなくなるんですよね。やっぱりCOEのロットは売れるけど、意外とそういうボリュームゾーンが売れなくて、農園の経営状況が厳しいみたいなことがよくあって。でもそれをコモディティとして売るのはもったいない。なので、地域のロットとして同じ品質で同じプロセスのコーヒーを集めれば地域個性は残るしクオリティも高い、かつ十分なボリュームを確保して値段も抑えられる。そんな風に地域の生産者組合のロットとしてまとめて作っているのがAcopacaです」

コーヒーを作る生産者は、栽培する全てのコーヒーがCOEレベルのトップオブトップではなく、限られた面積と設備のなかで様々なカテゴリーやジャンルのコーヒーをそれぞれに合った形で一生懸命作っている。特別なコーヒーだけがおいしいスペシャルティコーヒーではなく、農家さんにとってコーヒー生産が持続可能であり、私たち消費者も美味しいコーヒーを気軽に楽しめるようないい循環が生まれることが大切だと改めて感じた。最後にPostCoffeeユーザーさんにこのコーヒーをどんな風に楽しんでもらいたいか聞いてみた。

「デイリーに楽しんで欲しいかな。コーヒーをマニアックに好きっていう人よりかは、なんとなく美味しいコーヒー飲みたいなっていう人にちょうどいいコーヒーだなと思っています。美味しいコーヒーの層を広げるのってそこが大事じゃないですか。なんか最近美味しいコーヒーがある、世の中に広がっているらしいな、くらいの初心者の方に気軽にどんどん飲んで欲しいですね」

「between you and producers」

COYOTEのコンセプトだ。農作物としてのコーヒーから、日常の嗜好品としてのコーヒーまで。生産者と消費者の間に立ち、これからも産地のストーリーと共に、美味しいコーヒーを届け続ける彼らから目が離せない。

※1 カッピング:コーヒーの香りや味を評価するために行うコーヒーのテイスティング
※2 COE:Cup of Excellence(カップオブエクセレンス)とは、最高品質のコーヒーにのみ与えられる栄誉ある称号

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焙煎士としておいしいコーヒーを消費者に繋げ、各地のロースターさんと一緒になってスペシャルティコーヒーの魅力を伝え、いい循環を生んでいきたいです。