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KARIOMONS COFFEE ROASTER 伊藤 寛之 インタビュー|The Roaster’s Coffee Life

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2023/08/15

スペシャルティコーヒーの世界に欠かせない存在のひとつがロースター。PostCoffeeでは、コーヒーの世界をより楽しんでもらうべく、国内外の様々なロースターから取り寄せたコーヒーを販売しています。

本企画では、彼らのコーヒーとの出会いやロースターとしての想いに迫るインタビューを実施。今回はKARIOMONS COFFEE ROASTER(カリオモンズコーヒーロースター)の伊藤さんにお話を伺いました。(文中敬称略)

長崎市内から車で約30分、大村湾に面している港町「時津町(とぎつちょう)」にカリオモンズコーヒーロースターは焙煎所を構える。豊かな自然と港町特有の雰囲気が調和し、住み心地の良さが感じられるこの町に佇むカリオモンズコーヒーは、一見コーヒー屋とは思えない倉庫のような外観が特徴だ。

オーナーを務めるのが伊藤寛之さん。2009年地元長崎にカリオモンズコーヒーロースターを立ち上げてから今年で創業14年を迎える。長崎のスペシャルティコーヒーシーンの第一人者として業界を牽引してきた伊藤さんだが、この世界に入ることとなったきっかけは何だったのだろうか。

スペシャルティコーヒーとの出会い

「コーヒーに初めて興味を持ったのは18歳の時です。当時はまだ今のようなコーヒーショップとかは無かったのですが、喫茶店やカフェに行くのが好きで趣味にしていました。」

元々缶コーヒーやインスタントコーヒーをよく飲んでいた伊藤さんだったが、喫茶店巡りをする中で徐々にコーヒーというものに興味を持つようになったという。そんな中、通っていたお店のひとつから声がかかりアルバイトとして働くことになったそうだ。本格的にコーヒーの世界に足を踏み入れた伊藤さんだが、そんな彼の心をさらに動かしたのがスペシャルティコーヒーとの出会いだ。

「2007年にブルータスでスペシャルティコーヒーの特集に載っていた福岡のハニー珈琲に行ったんです。そこで浅煎りのケニアを飲んで、その味わいにめちゃくちゃびっくりしました。当時はまだコーヒーのことをよく知らないので、美味しい美味しくないとかじゃなくて、とにかくケニアのフレーバーに衝撃を受けて、それからスペシャルティコーヒーというものに興味を持ち始めました。」

この一杯のケニアのコーヒーとの出会いは、伊藤さんにとって“センセーショナルな体験だった”と当時を振り返る。

産声をあげた“カリオモンズ”

その後コーヒーの世界へどっぷりと浸かっていった伊藤さんは2年後の2009年、ケータリングカーによるコーヒーショップ「カリオモンズコーヒーロースター」を立ち上げた。23歳という若さにして独立を決めたきっかけとは何だったのだろうか。

「当時、長崎でスペシャルティコーヒーを飲めるお店がなかったんです。なにより自分自身が一番飲みたかったし、自分はたった一杯のコーヒーに衝撃を受けてものすごくコーヒーに惹かれたので、その体験をもっと色んな人に伝えたかったんです。」

そんな伊藤さんの想いのもと長崎の地で産声を上げたカリオモンズコーヒーだが、お店の名前はあまり聞き馴染みのない響きだ。この店名にはどんな意味が込められているのだろうか。

「“カリオモン”はエチオピアの言葉で『コーヒーセレモニー※』や『コーヒーを一緒に飲む仲良しの間柄』みたいな意味があるんです。『ズ』をつけたのは語呂が良かったのと、まだ世にでていない新しい言葉という部分でもいいなと思ってつけました。」

地域に根ざすお店に

店名の由来からも見て取れるようにお店に一歩足を踏み入れた瞬間、実家に帰ってきたかのような安心感と温かい空気に包まれるカリオモンズコーヒー。地方のコーヒーショップならではの雰囲気が魅力的だが、伊藤さんにとってこの場所でコーヒー屋をやる意義とは。

「ひとつ大きなメリットとしては、ゼロからイチを創ることができる。全く何もない状態から文化そのものを築くことができるのは僕にとっては挑戦的で面白い部分です。もちろん既に文化とかコミュニティがある中でその流れにのっていくと、ビジネス的にはスケールしていくのが早いんですけど、自分はそれよりもその土地の人たちに体験として伝えていくところに魅力を感じます。」

大切にしたいカリオモンズらしさ

長崎でコーヒーの新しい文化を切り拓き、美味しいコーヒーを届け続けている彼は焙煎士、バリスタとしても現場に立ち続けているが、日頃からどのような意識でコーヒーと向き合っているのだろうか。

「ロースター、バリスタってフィルターだと思うんですよね。やっぱり自分はユニークな味が生まれた土地のことだったり作り手さんのことに興味があってコーヒーを始めたので、自分の作り手としてのフィルターは限りなくクリアにしておきたいという気持ちがあります。なのでコーヒーの本来持っていない風味をつけることはあまりやりたくないと思っていて、『足さず、引かず』を意識してます。

色んなロースターさんの豆を飲んでいて、天才的に上手だなぁと思うロースターさんはたくさんいるんですけど、やっぱりそのロースターらしさが味わいにどうしてもでるんです。僕たちの焙煎もクリアなつもりではあるけど、他の人が飲んだ時にカリオモンズらしさが感じられるような、そんなコーヒーを目指したいですね。」

その土地や作り手の想いを一番に捉え、クリアに伝えることを大切にしてきた伊藤さんはお店の立ち上げから2年後の2011年に初めて念願のコーヒー生産地へ訪問した。

「当初より農園に行きたいという気持ちはあったんですけど、ひとりでいっても成果は生まれないということはわかっていて、だから既に産地に行っているロースターとの繋がり作りを大事にしていました。その中でご縁があったのが山口県のミルトンコーヒーというところで、買い付けに同行させて欲しいとお願いして連れていってもらったのが最初です。」

それまでもインターネットなどで生産者さんのことや産地のことをひたすら読み漁り勉強していたという伊藤さんだが、実際に訪れてみると一瞬でその情報量を超えたという。

「正直最初の一年は情報の処理が追いつかなくて成果を生む何かがあったかというとあまりなかったと思います。そのくらい常に興奮してました。」

「その時は買い付けグループに入っているわけではなくビジターとして同行していたんですけど、ミルトンコーヒーの代表田中さんから『一緒に買い付けをしないか』と声をかけていただいたのが嬉しくて、その一言はいまでも記憶に残っています。」

田中さんからの一言をきっかけに途中から買い付けの旅に変更になるが、伊藤さんにとっての初めての買い付けをこう振り返る。

「当時は月に30kgくらいしか焼いてなくて、年間でいうと大体350kgほどだったんですけど、実際には700kg以上の生豆を買い付けました。これ以上買っちゃダメだという気持ちもあるんですけど、それよりも目の前の美味しいコーヒーを日本に持って帰りたい、自分の手で焙煎してお客さんに届けたいという気持ちが勝ってしまうんです。気づいたら倍以上の量を買っていました(笑)でも実際に蓋を空けてみたら次の年の買い付けまで生豆がもたなかったんですよ。それぐらいそのコーヒーをお客さんに販売することに気持ちがこもっていたのかもしれません。」

作り手との絆

伊藤さんはそれから毎年同じ生産者から継続して買い付けを行い、中には10年以上の付き合いのある取引先もあるという。たくさんの農園がある中で、同じ生産者からの仕入れにこだわる理由とは。

「自分が好きな作り手からコーヒー豆を買うっていうのは、僕にとって一番コアになる部分です。味の観点だけでみると美味しいコーヒーを作る生産者さんはたくさんいるんですよ。ただ、自分のお店に通ってくださるお客さんと同じで、他にも美味しいコーヒーを売っているお店がたくさんあるのにずっと自分のお店に来てくれる。それって美味しいを飛び越えた何かがあると思っていて、そういう気持ちを僕も生産者さんに対して持っているんです。コーヒーが美味しいっていうのはもちろんなんだけど、単純にその生産者さんが好きだから、その人のコーヒーを僕は売りたいんです。」

生産国と消費国を繋ぐ役割を担う伊藤さんは、コーヒーと真摯に向き合い地道な努力の末に生産者さんとの信頼関係を築きあげていった。そんなコーヒー業界のキーパーソンとして美味しいコーヒーを伝え続ける彼に今後の目標について伺った。

「僕たちはあくまでもローカルのコーヒーショップだと思っていて、ただ地方にあるからって地方っぽいことをしないといけないということでもないと思うし、他所から来た人にもちゃんと楽しんでもらえるものをつくり、提供するっていうのは僕たちの責務でもあると思います。地方のお店だけどちゃんと世界に向けて開いているという状態を維持して、カリオモンズが長崎に行く理由のひとつになったらいいなと思っています。」

地域に根ざし、ひたむきにコーヒーを伝え続けた14年。カリオモンズコーヒーは長崎に行く目的として、数多くの人の心を動かし続けていることは間違いない。伊藤さんにとってコーヒーは特別な存在ではあるが、そんな彼のコーヒーに対する気持ちを自分なりの言葉で最後に伝えてくれた。

「たしかに僕は一杯のコーヒーで人生を変えられた人間だけど、コーヒーを変に神格化することなく、すべての人にとってコーヒーはコーヒーであって欲しいなと思います。」

※コーヒーセレモニーとはエチオピアの伝統的な習慣であり、コーヒーを飲むことを儀式化した作法の一つである。エチオピアではカリオモンと言い、「カリ」とはコーヒーノキの葉、「オモン」は「一緒に」という意味である。

伊藤 寛之 / Hiroyuki Ito
KARIOMONS COFFEE ROASTER

2009年長崎に「KARIOMONS COFFEE ROASTER」を創業。扱うコーヒー豆のほとんどをダイレクトトレードで仕入れ、カップの中のコーヒーだけでなく、その裏にあるストーリーを伝えることや体験作りを大切にしている。環境問題にも積極的に取り組んでおり、2020年よりスタートした「ナイスパス」プロジェクトには全国の企業や団体が100以上が参加している。

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焙煎士としておいしいコーヒーを消費者に繋げ、各地のロースターさんと一緒になってスペシャルティコーヒーの魅力を伝え、いい循環を生んでいきたいです。